【道を拓くライフ・ストーリー『地域に生きる女性たち』(溪水社)】
人はみな、さまざまな場において、一度きりの生を営む。
自らの足元に広がる土の色、その手触り、温もりを糧に見上げる空は
時代という特殊な匂いをはらんで、ひとりの人生を鮮やかなオリジナリティをもって色づける。
『地域に生きる女性たち』(中島美那子 塩原慶子《編著》溪水社)
茨城県北部に生きる11人の女性たちのライフ・ストーリーを読んだ。
第5章に分かれ、「農」「公」「商」「芸」「つながり」といったキーワードで、
地域社会の中で、自らの立ち位置を模索し切り拓き、たくましく生き抜く女性たちの日々が
インタビュー形式で、躍動感をもって記されている。
彼女たちの生の「声」に惹かれ、ページをめくっていると、女性の自立について、500ポンドの年収と自分一人の部屋を持つことの必要性を説いたヴァージニア・ウルフの言葉を思い出した。(卒業論文のテーマにウルフを選んだ女性のインタビューも取り上げられている)
時代の波に翻弄されながらも、ひとりの人間として、女性として自らの人生と真摯に向き合う女性たちの凛とした立ち姿が印象的だ。
女性に学問はいらないとする考えや地域社会の風習、嫁の立場としての行動制限など、
女であること、性に課された役割の重さを全身で受け止め、しなやかに受容していく、
あるいは、ふりほどいていく姿が、すがすがしい。
一人一人の章の始まりに置かれたモノクロームの肖像写真がとても魅力的に写る。
唯一無二の人生の輝きが、確かにそこに現れている。
歴史の事象は、男性の視点から語られることが多い。しかしながら、
社会や時代の新たな変革に、女性の視点は大きな視座と光をもたらすものだ。
編著者である塩原慶子氏のことばを借りれば、
本当に「かっこいい」女性たちの姿が刻まれた一冊。
行の狭間から、大らかな母性、大地の呼吸が伝わってくる。
そんな女性たちの生が息づく場、常陸太田を故郷にもつことを誇りに思った。
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