【「愛について」〜よみがえることば】


光に向かって花開く

静かなことば。


遠いむかしに唇に乗せた詩のことばが
蘇ってくることがある。


心の奥深くに眠り
ときに息づくことばたち。


2人の出発を唄う愛の詩。
「愛」ということばは、
いつも私たちひとりひとりの内奥に響く
永久のことばだ。




「愛について」
             ───入沢康夫

ぼくたちは歩く

ぼくたちは近づく
ぼくたちは語り合う
ぼくたちは歩き ぼくたちは語り合う

ぼくたちは語り合う

ぼくたちの愛について 未来について
そのために不可欠な 自由のこと
平和のこと
この焦土でそれは何よりも静かな言葉
よる廃墟にふる雪よりも
砂丘の起伏よりも
それは何よりもおだやかに語られる言葉でなくてはならない


けれどもそれは
数知れぬ歯あとのくいこんだ銃床のように重く
熔鉱炉のようにふかく燃え
海なりのように巾広く そうしていつまでも
絶えることのない言葉でなくてはならない


一瞬焼けただれる唇の上ででも
色あせない言葉
どのような暗い厚みをも とおして聞える言葉

それを選び

ぼくたちはそれを血の中にとかし合う
ぼくたちは抱き合う
ぼくたちは本当だ
ぼくたちは歩く
世界の人間の数だけの方角を指して歩く
ぼくたちは歩く


ぼくたちは近づく


★引用 入沢康夫『入沢康夫詩集』(思潮社 現代詩文庫31)



詩人・作家 神泉 薫(Kaoru Shinsen)のブログ ~言の華~

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