「幸福」と「貧乏」、どちらが好き? 藤村の童話・2
文豪、島崎藤村の童話、みなさんは、お読みになったことはあるでしょうか。
藤村は、小説や詩が広く読まれていますが、実は、童話もたくさん手がけています。
童話は、命あるものすべてが、対等にことばを持ちます。
セミ、みみず、あり、カエル、はっぱや花、空や風たちも。
人間だけがことばを持つのではなく、話し合えることが最大の魅力だと思います。
藤村の童話には、素朴でやさしいお話が多いのですが、ちょっと考えさせられる、哲学的なお話もあります。
「幸福(しあわせ)」というお話は、貧しいなりをした「幸福」が、「貧乏」と嘘をついて、人々を訪問し、相手のこころを試すのです。
貧しい姿という外側だけではなく、その奥もじっと見つめること。
子どもよりも、大人である私たちの方が固定観念や見た目にとらわれて、真実を見落としてしまうこと、あるかもしれませんね。
調布FMラジオ「神泉薫のことばの扉」放送分アーカイブにて、藤村の童話、ぜひ聴いてみてください。
日本の抒情詩の土台を築いた、詩壇の父と呼ばれた藤村の、金字塔的な詩です。
初恋
まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実(み)に
人こひ初(そ)めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃(さかづき)を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな
林檎畑の樹(こ)の下に
おのづからなる細道(ほそみち)は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
初々しい感情の発露が素晴らしいですね。
0コメント