【~永瀬清子の章~試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より③】
引き続き、試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より。
日本の近・現代詩人13人の詩と人生を見つめた一冊。
日本語の豊かさ、ことばの光を感じて頂けたらうれしいです。
本の中から、詩人たちの「ひとひらの姿」をご紹介します。
▶永瀬清子(ながせ きよこ/1906~1995)
岡山県生まれ。
現代詩の母と呼ばれた詩人。
明治、大正、昭和、平成と
四つの時代を生き抜きました。
大きな価値観の揺さぶりを肌で感じながら
封建制度に縛られていた時代、
「女」という言葉が、「妻」「母」「嫁」に塗り替えられる中、
永瀬が書く「私」の中には、「どっさりと豊かな女が含まれている」(宮本百合子)と、
自由と解放への糸口を担う書き手として登場しました。
焰よ
足音のないきらびやかな踊りよ
心ままなる命の噴出よ
お前は千百の舌をもつて私に語る、
暁け方のまつくらな世帯場で──。
年毎に落葉してしまう樹のように
一日のうちにすつかり心も身体もちびてしまう私は
その時あたらしい千百の芽の燃えはじめるのを感じる。
その時私は自分の生の濁らぬ源流をみつめる。
その時いつも黄金(きん)色の詩がはばたいて私の中へ降りてくるのを感じる。
(「焰について」)
『永瀬清子詩集』(1990年・思潮社 現代詩文庫)
(写真:永瀬清子『短章集 蝶の酩酊/流れる髪』(2007年・思潮社 詩の森文庫)より)
永瀬は、常に「私」の場所、
暮らしの内部から詩を生み出しました。
世帯場とは台所のこと。
農婦として働く日々の中、
火と水、大地と風と陽の匂いを存分に吸ったことばには、
みずみずしさがあふれています。
生涯、「書く私」を懸命に求め続けた永瀬。
詩のことばは、生の原初を見つめ、その魂を潤し、
生の本質を求めてやまない心を導き、励ましました。
~次回は吉岡実をご紹介します~
▶試論集『十三人の詩徒』(七月堂)
▶七月堂HP http://www.shichigatsudo.co.jp/
9月11日より、七月堂古書部で店頭販売が始まりました。
お立ち寄り頂けましたらうれしいです。
新しい読者との出会いを待っています!
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