【~草野心平の章~試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より⑧】


本日も、試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より。

日本の近・現代詩人13人の詩と人生を見つめた一冊。 

日本語の豊かさ、ことばの光を感じて頂けたらうれしいです。 


本の中から、詩人たちの「ひとひらの姿」をご紹介します。


▶草野心平(くさの しんぺい/1903~1988) 


福島県石城郡上小川村生まれ。 

「蛙」をモチーフにした数々の詩で知られています。 

ある時期、焼き鳥屋を営んでいた詩人の編み出した 

ポエジーあふれる店のメニューは、とてもユニークです。


日本酒を等級順に、天、耳、火の車、大地、鬼は焼酎、 

泉はハイボール、麦がビール。

婦人用のサイダーは息など。 

貧しさを超えて歩む生のリアリティが、

エネルギーあふれる多くの詩を生み出しました。 


独特のオノマトペ、ウィットとユーモアのある草野節。 

うたうような大らかなリズムが魅力的です。 


 億億の。 

 毛の生えた貝の微塵卵(みぢんらん)が。

 チリー沖のインディゴの流れにのつて。 

 流れ。 

 

 ボガァーン。


 海は裂け。

 ボガボガボガボガ。 

 岩漿(マグマ)はうねり。

 水蒸気は海面(うなづら)からヂカに白雲のもくもくになつて昇りひろがる。 


 ベエリングの氷の群は。

 南に向つてキシキシきしみ。 


 アハウドリ。 

 ゆんゆん。               


  草野心平『凹凸』より「海」(1974年・筑摩書房)

 (写真:8. 『草野心平全集』(1981年・筑摩書房)第5巻より)             


日本語の音に対する敏感な感性は、

留学体験を経て、 北京語、英語などの外国語に触れる中で

豊かに形成されました。 


どこか懐かしい響きを感じる草野心平の詩は、 

伝統と革新をあわせ持った独自の詩法に貫かれているのです。 


▶次回は金子光晴をご紹介します。   


▶試論集『十三人の詩徒』(七月堂) 

9月11日より、七月堂古書部で店頭販売が始まりました。

また、HPよりオンラインでご購入頂けます。

▶七月堂HP『十三人の詩徒』ご紹介&販売ページ

新しい読者との出会いを待っています!


詩人・作家 神泉 薫(Kaoru Shinsen)のブログ ~言の華~

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