【~稲葉真弓の章~試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より⑫】
空の青さは、今ここを離れて
天空に生きる人の息遣いを感じます。
試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より、
12人目の詩徒、詩人の生と言葉へ思いをはせます。
稲葉真弓、 「ひとひらの姿」をご紹介。
▶稲葉真弓(いなば まゆみ/1950~2014)
愛知県生まれ。詩人、小説家。
初期の代表作、サックス奏者の阿部薫と、作家、鈴木いづみの半生をモチーフとした
『エンドレスワルツ』は映画化され、話題になりました。
小説世界の充実と共に、生前最後の出版となった詩集『連作・志摩 ひかりへの旅』や、
東日本大震災へのオマージュを主軸とする詩集『心のてのひらに』など、
稲葉の仕事には、初期から、一筋の凛とした輝きを放つ詩のことばがありました。
黄色い森の奥でおもう
太古 水であったとき
天地創造の夜あけの乳汁であったとき
そしていま 水平の膜であるわたし
どこまでも走るものを走らせる
水平支線であるわたし
うたわれてつまびかれ うたい
溶けるのだよ
うたうことのなかへ
(「さみしい抱擁」)
稲葉真弓詩集『ほろびの音』(1982年・七月堂)より
90年代、東京品川の自宅とは別に、
三重県志摩半島に住まいを持った稲葉は、
愛する猫を連れて、都市と半島を移動する生活を身に刻んでゆきます。
この体験により稲葉は、時代の文化を担う都市の生命力と自然の持つ生命力、
両方の力を享受し、一層、充実した小説世界、詩世界を描いていきます。
もういちど生まれなおして
ほんとうに生きることについて
生きた時間について
あるいはいま生きていることの喜びや
この目の豊かなスクリーンに映されているものを
(「金色の午後のこと」)
稲葉真弓詩集『連作・志摩 ひかりへの旅』(2014年・港の人)より
(写真:稲葉真弓選詩集『さようなら はやめときましょう』(2019年・響文社 詩人の聲叢書第6巻)より)
自らの人生を賭して求め続けた
「ホントウのコト」や「美しいもの」が満ちあふれる世界。
震災を深く見つめた稲葉の詩のことばには、
誠実で真摯な光が満ちています。
▶次回は那珂太郎をご紹介します。
▶試論集『十三人の詩徒』
9月11日より、七月堂古書部で店頭販売が始まりました。
また、HPよりオンラインでご購入頂けます。
▶七月堂HP『十三人の詩徒』ご紹介&販売ページ
新しい読者との出会いを待っています!
▶稲葉真弓さんの朗読、ラジオアーカイブはこちらから。
ぜひ聴いてみて下さいね。
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