【~左川ちかの章~試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より⑤】
澄みゆく秋は、より深く読書への時間へ誘われますね。
本日も、試論集『十三人の詩徒』(七月堂)より。
日本の近・現代詩人13人の詩と人生を見つめた一冊。
日本語の豊かさ、ことばの光を感じて頂けたらうれしいです。
本の中から、詩人たちの「ひとひらの姿」をご紹介します。
▶左川ちか(さがわ ちか/1911~1936)
北海道余市生まれ。
昭和時代初期のモダニズムを代表する詩人。
ジェイムス・ジョイスやヴァージニア・ウルフ等の翻訳で名を知られ、
詩壇へと新風を巻き起こしながらも、二十四歳で夭折。
残された詩の宇宙から迸るのは、不器用なまでの生き難さ、
孤独という深淵が生み出す色彩豊かなイマージュの力強さです。
万華鏡のようにきらめくちかのことばは、
時代を超えて、私たちの内奥へと響いてきます。
朝のバルコンから 波のやうにおしよせ
そこらぢゆうあふれてしまふ
私は山のみちで溺れさうになり
息がつまつていく度もまへのめりになるのを支へる
視力のなかの街は夢がまはるやうに開いたり閉ぢたりする
それらをめぐつて彼らはおそろしい勢で崩れかかる
私は人に捨てられた
(「緑」)
左川ちか『左川ちか全詩集 新版』(2010年・森開社)
(写真:『左川ちか全詩集 新版』(2010年・森開社)より)
「詩の世界は現実に反射させた物質をもう一度思惟の領土に迄もどした角度から表現してゆくことかも知れない。」(「魚の目であつたならば」)と、書くことへの批評性を失わなかったちか。
日本的な抒情的湿度や私性、女性性にもたれない、
現代性へ通じる自我の確立の下になされた、
まれな詩作営為であったと言えます。
ちかの詩のことばは、人間の根源からほとばしる、哀しみの種子を思わせます。
しなやかで力強い孤独が拓く詩の夢は、
今なお色あせることはありません。
▶次回は北原白秋をご紹介します。
▶試論集『十三人の詩徒』(七月堂)
▶七月堂HP http://www.shichigatsudo.co.jp/
9月11日より、七月堂古書部で店頭販売が始まりました。
お立ち寄り頂けましたらうれしいです。
新しい読者との出会いを待っています!
▶左川ちかの作品を紹介したラジオアーカイブはこちらから。
ぜひ、聞いてみて下さいね。
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