哀しみのレモン、空の青に。光太郎と智恵子。


愛する人を失うとき、胸の中には、どうあがいても、やりきれない空漠の、白い時間が流れます。けれど、大切な人が生きた証は、共に歩んだ人の記憶へと確かに刻まれ、決して色あせることはありません。


高村光太郎の詩集『智恵子抄』。亡き妻、智恵子への愛をつづった詩集の「レモン哀歌」。死の床にあって、レモンをがりりと嚙んだ瞬間の、トパーズ色の香気が、一瞬、智恵子に生気を蘇らせます。あざやかな生がほほえみとなって現れる、そこには永遠の喜びがしずかにみなぎっていたことでしょう。


体の呼吸は止まっても、魂の呼吸が止まることはないのです。


 写真の前に挿した桜の花かげに

 すずしく光るレモンを今日も置かう


太陽はめぐり、ゆっくりとまた新しい季節はめぐってくる。空の青に愛する人は息づいています。

そして、いくたびも、手向けるであろう桜の開花はもうすぐ。


調布FMラジオ「神泉薫のことばの扉」、2017.9.28放送分アーカイブにて、『智恵子抄』より、「レモン哀歌」「あどけない話」を朗読しています。ぜひ聴いてみてくださいね!



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