【詩人の描く「薔薇宇宙」】
庭に咲いた薔薇の
幾重にも重なる花弁を見つめていると
詩人、多田智満子の詩作品「薔薇宇宙」のことばが蘇ってきた。
永遠に広がり、旋回する薔薇。
開き続ける花の美しさの背後に見え隠れする華やぎの滅び。
1963年の初夏、多田は、LSDを服用した際、数時間にわたって、一輪の薔薇を見続けたという。(精神医学の実験のもとに行ったこと、エッセイ「薔薇宇宙の発生」に詳しく書かれている。現代詩文庫『多田智満子詩集』(思潮社)) この体験から、詩「薔薇宇宙」は生まれた。
そして、詩のエピローグにはこう綴っている。
宇宙は一瞬のできごとだ
すべての夢がそうであるように
神の夢も短かい
この一瞬には無限が薔薇の蜜のように潜む
現代詩文庫『多田智満子詩集』(思潮社)より引用
多田の詩は常に、永遠と無限へ、ベクトルを伸ばす。
乾いた風、晴れやかな地中海が見えてくる。
永久に典雅な詩のミューズの、立ち並ぶ書籍の庭へ足を踏み入れる。
詩集『白であるから』(七月堂)の巻頭詩は、「薔薇色の額に口づけを」。
敬愛してやまない多田智満子の詩のエコーがゆるやかに。
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